村上春樹『風の歌を聴け』
台風が近づいていた夕方。
吹きつけた風に僕の生も流れていった。
一生懸命に働いていても、ボーっと過ごしていても時間は過ぎ去って行く。
風は時間の流れを教えてくれているのだろう。風車のように時計は回る。
青春に吹く風は台風のように荒々しく不安が混じっている。
進路、就職、恋愛。あらゆる取捨選択が求められる。
選択をするということはほかの選択肢を諦めるということだ。
人生は諦めの連続。何かを選び取り何かを失う。それが人生なのだろう。
諦めるという痛みに傷つき耐えて大人になっていく。
実家は海に近かった。思い悩んだとき、深夜によく海に行った。
今では川沿いを歩く。風を浴びたくなるのだ。
岐路に立ったとき風を感じたくなるのは、風が生を実感させてくれるからだと気づく。
ニーチェの言葉が深く刺さる。
「昼の光に、夜の闇の深さがわかるものか。」
どんな人にも風は等しく吹く。
風は何を語りかけているだろうか。
風の歌に耳を澄まそう。
首にぶら下がっている時計の針は今も動いている。